シリーズ 乳牛の分娩前後の低カルシウム血症(乳熱)を考える「第九回 上皮小体ホルモン(PTH)とビタミンDのコラボ」

 

第八回で、乾乳後期にCaを過剰給与すると、ビタミンDの分泌が遅れて、乳熱の治療をしてもCa剤に反応せず再発することを述べました。今回は、Ca吸収からみたPTHとビタミンDの関係について解説します。

図9-1はラットの例ですが[1,2]、ビタミンDとPTHの有無がCaの血中濃度及び尿中排泄量に及ぼす影響を示しています。横軸は血清中Ca濃度(mg/dl)、縦軸は尿へのCa排泄量(mg/hr)です。○がビタミンDもPTHも無い場合、△はビタミンDは存在するがPTHは無い場合、●はビタミンDは無いがPTHは存在する場合、そして▲はビタミンDもPTHも存在する場合、すなわち正常な状態です。

○を見ていただくと、血清中Ca濃度が5mg/dl位で尿へCaが約0.18mg/hr排泄され、血清中Ca濃度が高くなるほど直線的に尿へのCa排泄速度(単位時間当たりの排出量)が増えています。よって、なかなか血清中Ca濃度は上がっていきません。

▲は正常な状態で、血清中Ca濃度が9mg/dlで尿への排泄は0.05mg/hr程度です。

第八回で紹介した乾乳後期のCa過剰給与の事例では、分娩後に血中ビタミンD濃度が上がってこない状態が2日程度続きました。これは●に相当し、血清中Ca濃度が6.5mg/dl以上になると尿中へCaがどんどん排泄されてしまい、Ca濃度がなかなか上がらないという事を示しています。

このような●状態にならないように乾乳後期、分娩前約3週間はCa給与量に十分気をつけたいですね。かといってCa給与量を減らしすぎると、分娩直後からの消化管内のCaの存在量が少なくなってしまうので要注意です。

また、ビタミンDの要求量がNRC2021年販で変わりました[3]。NRC2001年版では要求量(Requirement) がビタミンDとして体重1kg当たり30IUだったのですが、2021年版では適正摂取量(Adequate Intake)と言う表現に変わり、ビタミンDとして体重1kg当たり40IUに増えました。

 

[1]1984. J Clin Invest 74(2)507-13

[2]1987. Kidney Int 32(5)760-71

[3]2021. NRC. P169