シリーズ 乳牛の分娩前後の低カルシウム血症(乳熱)を考える「第八回 分娩3週間前からはCa過剰給与厳禁」

 

第八回目の今回は、2の「Ca過剰性の低Ca血症→Ca排泄機構のコントロール」について解説します。

一時期、「分娩前はCaを給与してはいけない」といわれていました。なぜなのでしょうか?分娩前に負のカルシウムバランスにすることは、上皮小体ホルモン(PTH)の分泌を刺激することになります。PTHは骨からのCa再吸収を刺激する破骨細胞を活性化し、尿からのCaを再吸収する腎尿細管を刺激し、分娩前からビタミンDを産生させるといわれているからです[1]。

少し古い話ですが、1989年に米国でジャージー種を用いて行なわれた乳熱発症試験の結果を紹介します[2]。分娩6週間前から過剰なCa給与によって乳熱を発症させ、その発症した牛に治療のためにCa投与を行なって、治癒した牛を「治癒群」、治癒しなかった牛を「非治癒群」とし、これらのウシのPTHとビタミンDの濃度を比較・検討しました。分娩前後の血中PTH濃度の推移は両群間で差はありませんでしたが、ビタミンD濃度は、「非治癒群」が分娩4日前から「治癒群」よりも低値を示しました(図8-1)。分娩後、ビタミンD濃度が乾乳期の5~6倍になったのは、「治癒群」は分娩2日後だったのに対して、「非治癒群」は分娩4日後と2日遅れました。これより、「非治癒群」の血中Ca濃度の回復が遅れたのは、ビタミンDの上昇遅延によるものだと考えられました。PTHとビタミンDの関係については次回、お話しします。

臨床例として、乳熱でCa剤を静脈内投与しても血中Ca濃度が回復せず、起立できない症例があります。「ダウナー症候群」といわれますが、これは乾乳後期のCa過剰摂取により発症した例も含まれると考えられます(違う要因の場合もあると思います)。乾乳後期のCaおよびオリゴ糖DFAⅢ(第3回参照)の給与は、DFAⅢのCa吸収促進作用により、Ca過剰吸収を招く恐れがありますので十分注意する必要があります。

[1]NRC2001、P188(1981 J Dairy Sci 64;217-226 Green HB et al.)

[2]1989 Endocrinology 125;49-53 Goff JP et al.