シリーズ 乳牛の分娩前後の低カルシウム血症(乳熱)を考える「第七回 NRC2021年版 乳牛のCa要求量の計算」

第四回で、Ca要求量の計算方法を述べました。電卓で計算できる「日本飼養標準乳牛2017年版」の算定式を用いて検証しています。ところが昨年(2021年)12月に、NRC(Nutrient requirements of Dairy Cattle)の改訂版が出版されました。Ca吸収に関しての主な変更事項は、

1.維持要求量が体重ではなく乾物摂取量(DMI)の関数になった

2.乳中に排出されるCa量が2001年版より少なく見積もられた

3.飼料・添加剤のCa吸収率が2001年版より少なく見積もられた

の3点です。

 

1.維持要求量

2017年版日本飼養標準 成雌牛の維持に必要な要求量 Ca(g)=0.0l54×体重(kg)÷0.38

2001年版NRC 成雌牛の維持に必要な要求量 Ca(g)=0.0l54×体重(kg)

2021年版NRC 成雌牛の維持に必要な要求量 Ca(g)=0.9×DMI(kg)

 

2.乳中への排出量

2017年版日本飼養標準 産乳に必要な要求量 Ca(g)=(1.20(注1)×FCM(注2))÷0.38

(注1)乳1kg当たり吸収Ca要求量はホルスタイン種1.22g、ジャージー種1.45g (NRC2001)でしたが、2021年版で、ホルスタイン種1.03g、ジャージー種1.13gに変わりました。

(注2)4%脂肪補正乳量FCM=乳量(kg)×(0.15×乳脂肪率(%)+0.4)

3.吸収率

各飼料原料、添加剤のCa吸収率の比較を表に示しました。

これらのCa吸収率が2001年版よりも低く見積もられたことで、Ca要求量を満たすためにはCa供給材料の添加量を増やさなければならないことになりますが、分娩前(乾乳後期)のCaの給与過剰はかえって分娩時の低Ca血症を誘発します(第8回で解説予定)。特にオリゴ糖DFAⅢを給与する場合は、当分の間、乾乳後期のCa要求量、給与量は第四回の計算式、吸収率で計算してください。